受入れの実務
日本語学習が止まる理由と、続けさせる設計

入国して最初の数週間、本人は驚くほど熱心に日本語を勉強します。通勤電車でアプリを開き、覚えた言葉を職場で試す。ところが数か月すると、その姿を見かけなくなる——受け入れをしている会社なら、思い当たる光景ではないでしょうか。
先にお伝えしたいのは、これは本人の意思の弱さではないということです。仕事をしながら外国語を学び続けるのは、日本人が働きながら英語を続けるのと同じ難しさがあります。止まるのには構造的な理由があり、**構造には設計で対処できます。**この記事では、制度上の位置づけを確認したうえで、学習が止まる3つの理由と、続かせるための4つの設計を整理します。
日本語学習の機会の提供は「義務的支援」
まず制度の位置づけです。1号特定技能外国人支援計画には「本邦での生活に必要な日本語を学習する機会を提供すること」を記載することとされており、日本語学習の機会の提供は義務的支援の一つです。運用要領別冊では、次のいずれかの方法で、本人の希望に基づき支援を行う必要があるとされています。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| ① 教室の案内 | 就労・生活する地域の日本語教室や認定日本語教育機関等の入学案内の情報を提供し、必要に応じて同行して入学手続を補助する |
| ② 教材・講座の案内 | 自主学習のための日本語学習教材やオンライン講座の情報を提供し、必要に応じて入手や利用契約の手続を補助する |
| ③ 講習の場を用意 | 本人との合意の下、受入れ機関等が登録日本語教員等と契約して講習の機会を提供する |
出典:出入国在留管理庁「1号特定技能外国人支援に関する運用要領」
あわせて押さえたいのが2点。これらの支援に要する費用は受入れ機関等が負担することとされていること。そして留意事項に「日本語習得は継続的な学習により促進されるものであるため、習得状況に応じた適切かつ継続的な学習の機会を提供していくことが必要」と明記されていることです。つまり制度自体が、入国時に一度案内して終わりではなく、続くことを前提に設計してくださいという書き方になっています。
止まるのは、たいてい3つの理由
では、なぜ止まるのか。私たちが面談で見てきた範囲では、理由はほぼ次の3つに集約されます。
| 理由 | 起きていること |
|---|---|
| 仕事の疲れ | 慣れない仕事と生活で、帰宅後に机へ向かう体力が残らない |
| 目標の喪失 | 入国前は「試験合格」という締切があった。入国後は目指す級も期日もなくなる |
| 教材と生活のずれ | 手元の教材が試験対策用のままで、職場や生活で今日使う言葉と重ならない |
注目したいのは、3つとも本人の性格の問題ではないことです。疲れは労働の当然の結果ですし、目標の喪失は「入国がゴールになっていた」という構造の話です。教材のずれも、入国前の教材をそのまま持ち込めば自然に起きます。逆に言えば、どれも会社側の設計で手を打てるということです。学習が続いている職場は、本人の根性に頼らず、この3つを設計でつぶしています。
設計①:目標は「次の級」に置き直す
最初の一手は、目標の再設定です。入国前の学習が続いたのは「この試験に受かれば日本に行ける」という明確な目標と期日があったからでした。入国後も同じ構造を作ればよい——具体的には、いま持っている級の「次の級」を目標に置きます。
| 試験 | 概要 |
|---|---|
| 日本語能力試験(JLPT) | N5(やさしい)からN1(難しい)の5段階。N4は「基本的な日本語を理解することができる」、N3は「日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる」水準。国内では**年2回(7月・12月)**実施 |
| 国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic) | 生活場面のコミュニケーション力を測るテスト。CEFR(言語能力の国際的な参照枠)のA2水準に達しているかを判定する。コンピューターで受験するCBT方式 |
出典:日本語能力試験(JLPT)公式サイト/国際交流基金 JFT-Basic公式サイト
たとえばJFT-BasicのA2水準で入国した方ならJLPTのN4、N4で入国した方ならN3、という置き方です。大事なのは級そのものよりも、**申込みまで一緒にやってしまうこと。**JLPTは年2回しかないので、「12月の試験に申し込んだ」という事実が、そのまま半年間の締切になります。受験支援は運用要領別冊でも任意的支援の例として挙げられており、受験料の補助や合格者への優遇措置まで踏み込む会社もあります。
設計②:時間・見える化・褒める仕組み
目標を置いたら、続けるための仕組みを3つ足します。
学習時間は生活の中に固定する。「空いた時間に勉強してね」は、疲れている人には「勉強しなくてよい」と同じ意味になります。続いている職場は、週1回の教室の曜日を決めてシフトをその日だけ早番にする、始業前の15分を単語の時間にするなど、時間割の側に学習を埋め込んでいます。長時間である必要はありません。短くても、毎週同じ時間に来ることが効きます。
**進捗を見える形にする。**学習が止まったことに3か月後に気づくのと、2週間後に気づくのとでは、打てる手が違います。使っている教材の進み具合やアプリの学習記録を月1回の面談で一緒に見る、それだけで「見てくれている人がいる」状態が生まれます。面談そのものの設計は定期面談で何を聞くかに書きました。私たちはAI顧問のご支援の中で、こうした学習状況の集約を自動化するお手伝いもしていますが、道具が何であれ、誰かが定期的に見ていることが本体です。
**進んだら、言葉にして褒める。**新しい言葉を職場で使ったとき、模試の点が上がったとき、その場で言葉にする。日本語の上達は本人には自覚しにくく、周囲のほうが先に気づきます。「先月より電話の取り次ぎがスムーズだね」という一言は、教材を1冊買い足すより効くことがあります。任意的支援の例に「資格取得者への優遇措置」が挙がっているのは、上達が処遇に反映されることが継続の力になるからです。手当のような形でなくても、朝礼で合格を紹介するだけで十分に機能します。
なお、教材と生活のずれには、文化庁の「つながるひろがる にほんごでのくらし(つなひろ)」のような、生活場面から学べる公開コンテンツが運用要領別冊でも紹介されています。試験対策の教材と生活日本語の教材は役割が違うので、両方を場面で使い分けるのがおすすめです。
どこまで自社でやるかは、体制で答えが変わります
ここまでの設計は、どの会社でも組める型です。ただ、教室が近くにない地域での機会の作り方、シフトと学習時間の両立、目標の置き方が合わない場合の調整——このあたりは、地域・分野・受け入れ人数で答えが変わります。判断が分かれるところは、個別にお話を伺ったほうが早いことが多いです。私たちは登録支援機関として、受入支援の一部として日本語学習の設計もご一緒しています。入国直後の立ち上げから設計したい場合は、入国から最初の1か月にやることもあわせてご覧ください。
まとめ:止まるのは設計で防げる
- 日本語学習の機会の提供は義務的支援。費用は受入れ機関等の負担で、継続的な機会の提供が求められている
- 止まる理由は、疲れ・目標の喪失・教材のずれの3つ。本人の意思の問題ではない
- 目標は「次の級」に置き、申込みまで一緒にやって締切を作る
- 学習時間はシフトの側に埋め込み、進捗は定期的に見て、進んだら言葉にして褒める
次の一手は、いま受け入れている方の「現在の級」と「次の試験日」を1枚に書き出してみることです。空欄が多ければ、それが設計の始めどころです。
なお、本記事の内容は公表されている情報にもとづく目安です。最新の要件は出入国在留管理庁など各機関の公表内容をご確認ください。
出典
- 出入国在留管理庁「1号特定技能外国人支援に関する運用要領」 https://www.moj.go.jp/isa/content/930004553.pdf
- 出入国在留管理庁「1号特定技能外国人支援・登録支援機関について」 https://www.moj.go.jp/isa/policies/ssw/supportssw.html
- 日本語能力試験(JLPT)公式サイト https://www.jlpt.jp/
- 国際交流基金 日本語基礎テスト(JFT-Basic)公式サイト https://www.jpf.go.jp/jft-basic/
