AIと業務効率

生成AIを社内で使い始める、最初の決めごと

生成AIを社内で使い始める、最初の決めごと

「生成AI、うちで使ってよいものか決めかねています」。受け入れ企業のご担当者から、よく伺う話です。その一方で現場では、翻訳や文章の下書きにすでに使われていることがあります。社内に線が引かれていないだけです。線がないと、まじめな人ほど手が止まります。決めごとがあれば「この範囲なら自由に使ってよい」と言えます。この記事では、道具を選ぶ前に決めておく3つを、国が公表している資料の考え方に沿って整理します。内容は2026年8月時点の公表内容にもとづく目安であり、最新の要件は各府省庁の公表内容をご確認ください。

決めるのは3つ。道具選びはその後でよい

国が出している「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(総務省・経済産業省、2026年3月31日公表)は、対象者を「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」の3つに大別し、AI利用者とは「事業活動において、AIシステム又はAIサービスを利用する事業者」と定義されています。自社で開発せず既製のサービスを業務で使う会社は、この「AI利用者」に近い立場です。複数を兼ねる場合もある旨も書かれているので、当てはめは自社の使い方に照らして考えてください。

読む前に身構える必要はありません。同ガイドラインの第5部は、AI利用者について「これにより業務効率化、生産性・創造性の向上等AIによるイノベーションの最大の恩恵を受けることが可能となる」と書いています。使うことが前提で、そのうえで気をつける点が並ぶ構成です。

最初に決めるのは、次の3つで足ります。

決めごと 決める内容 最初にやること
1. 入れてよい情報 どの情報なら入力してよいか 個人が特定できる項目を書き出す
2. 人が残す判断 AIの出力をそのまま使わない業務 提出物・処遇に関わる業務を洗い出す
3. 記録の残し方 誰が何にどう使ったか 表計算1枚に列を作る

順番が逆になると、契約したのに誰も使わない状態になりがちです。道具の選定は、この3つを決めた後で構いません。

決めごと1:入れてよい情報と、確認してから入れる情報

国が「個人情報を入れてはいけない」と言っているわけではありません。個人情報保護委員会の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(2023年6月2日)が事業者に求めているのは、次の2点です。1つは、個人情報を含むプロンプトを入力する場合、特定された当該個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること。もう1つは、あらかじめ本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入力し、それが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性があるため、サービスを提供する事業者が当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認することです。

つまり「入れるな」ではなく「確認してから入れる」の話です。契約するサービスが学習に使わないかは一度確かめれば足り、利用目的の範囲内かは入力のたびに向けられた求めです。うまく回している会社は、情報の種類ごとの線を先に社内へ配り、毎回の判断を軽くしています。受け入れ企業なら、線を引く対象は具体的です。

情報の種類 扱い 実務での置き換え方
在留カード番号・パスポート番号 入れない 番号を消し、案件番号で呼ぶ
氏名・住所・生年月日 入れない 「Aさん」「甲市」に置き換える
個別の面談記録・処遇の相談 確認のうえ判断 事実だけ抜き、人物が特定できない形にする
全員に配る掲示・手順書 入れてよい そのまま下書きを頼める
制度の一般的な調べもの 入れてよい 出典は自分で確認する

同ガイドラインも、AI利用者に関する事項として、個人情報と機密情報の双方に「不適切に入力することがないよう注意を払う」ことを挙げています。線を引くときに契約プランと利用規約も確認しておくと、判断がまとめて済みます。自社の取扱規程と、サービス提供事業者の公表資料をご確認ください。迷う情報は入れないほうへ倒し、窓口役にあとで相談する運用にすると、現場が止まりません。

決めごと2:人が最終判断を残す業務

2つ目は、AIの出力をそのまま使わない業務を先に決めることです。同ガイドラインは共通の指針の公平性の項で、「AIに単独で判断させるだけでなく、適切なタイミングで人間の判断を介在させる利用を検討する」とし、その際は「人間の判断が自動化バイアスに左右されないような対策を講じるべきである」と書いています。自動化バイアスとは、脚注によれば「人間の判断や意思決定において、自動化されたシステムや技術への過度の信頼や依存が生じる現象」のことです。もっともらしい文章が出てくるほど、確かめずに通してしまう。能力の問題ではなく、人の傾向として起きます。

だから「気をつける」ではなく、業務の側で線を引きます。私たちが書類業務で使っている下書きは自動・確定は人という切り分けと同じです。

業務 AIに任せてよい部分 人が確定する部分
社内掲示・手順書 文章の下書き、言い換え 日付・金額・安全の指示
面談メモの整理 要点の並べ替え 事実かどうか、本人への確認
制度の調べもの 論点の洗い出し 一次情報での裏取り
届出・申請の書類 転記の下書き 記載内容と提出の判断
在留資格の可否や処遇の判断 使わない 人が判断し、必要なら専門家に相談

最後の行は、受け入れ企業では特に大事です。在留資格の可否は個別事情で変わるため、AIの回答を答えとして扱わないでください。判断が要る場面では、私たちも行政書士等と連携して進めています。

決めごと3:記録の残し方は、1枚から

3つ目は記録です。同ガイドラインは透明性の指針として、検証可能性を確保するため「データ量又はデータ内容に照らし合理的な範囲で」入出力等のログを記録・保存することを挙げ、記録方法や保存期間は用途に照らして検討するとしています。共通の指針であって法的な義務ではなく、全部を残す必要もありません。

中小規模なら、次の6列を表計算に用意すれば足ります。

列 書く内容
日付 使った日
使った人 氏名または部署
業務 掲示の下書き、面談メモの整理など
使った道具 契約しているサービス名
入れた情報の種類 「個人情報なし」など線引きに対応する語
人が直したところ 直した箇所を一言

6列目が、あとで効いてきます。直した箇所が溜まると、任せてよい業務と人が見る業務の線が、記録から分かります。置き場所は、情報の集約で作った表と同じファイルの別シートで構いません。仕組みを増やさないほうが続きます。

最初の1業務は、こう選ばれています

全社導入は要りません。すでに使い始めている会社は、たいてい同じ順番で進んでいます。まず、毎週発生し、型が決まっていて、外に出す情報が少ない業務を1つだけ選ぶ。その業務だけで3つの決めごとを当てはめる。1か月使って、記録の6列目を見ながら任せる範囲を調整する。それから2つ目へ広げる、という順です。

最初の1業務の候補は、社内向けの文書が選ばれることが多いです。社内の通知をやさしい日本語に書き換えるのは、個人情報を入れずに済み、出来のよしあしが読めば分かるので、始めやすい部類です。候補が思いつかないときは、業務の棚卸しで1人の1週間分を書き出すところからで十分です。

同ガイドラインと同じページで、同日付にチェックリストも公表されています。3つを決めたあと、抜けを見るのに使えます。

どの業務から始めるか、線をどこに引くかは、受け入れている人数、扱う情報、社内に置ける人によって変わります。御社の場合にどう決めるのがよいかは、いまの業務を伺ったうえでお伝えします。私たちはAI顧問・DX支援として、棚卸しから決めごとの言語化、運用までご一緒しています。成果をお約束することはできませんが、まず1業務から始めた会社が、次の業務へ広げていった例があります。

まとめ:3つ決めれば、今日から始められる

  • 国のガイドラインは、使うことを前提に留意点を並べている。身構えなくてよい
  • 入れてよい情報は「入れるな」ではなく「確認してから入れる」。番号と氏名は置き換えてから使う
  • 人が残す判断を業務の側で決める。在留資格の可否と提出の判断は人が持つ
  • 記録は6列の表1枚から。直した箇所の記録が、次の線引きの材料になる

次の一手は、来週配る社内文書を1つ選び、その業務だけについて3つを紙に書くことです。道具の契約はその後で間に合います。

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